2189人が本棚に入れています
本棚に追加
「体調、良くないだろ。そんなに急いで出て来て行かなくても」
「休むわよ、しっかり。それから、また働くし、大丈夫」
「な、持って行けよ」
そう言って1枚のカードを差し出す。体調が悪いのに、働かせたくはなかった。クレジットだと、使えないだろうから。
「いらないわよ。ね、再婚したら奥さんと子供に怒られるわよ。それに、あなたも後悔するでしょ」
再婚?俺が?するわけないだろ。
「出て行くなよ、勝手に」
念を押した。佐田の予想なんて当たらなければいい。
「離婚届も、一緒に。絶対だからな」
一緒にったって、今日出て行くって言われたって、俺はどうするのか。その日が来れば……俺はどうするのだろうか。
「手伝うよ」
「いいわよ、手伝って貰うほどないもの」
光はそう言ったけど、1枚のワンピース。よく覚えてる。……あの時、あの場所で……着ていた。ああ、本当、我ながらよく覚えてる。
「……懐かしいな、この服。好きだった」
「うん……」
「ああ、これも……」
「うん……」
ふと、目を移すとA5サイズにずらりと並ぶ手帳。リフィルタイプは嫌いだって、言ってたっけ。それにしても、この数。
「凄いな、これ、手帳全部置いてるんだな」
「ええ。えっと……実家から独り暮らし始めてからだから……何冊になるのかしら。日記をつけてて……」
独り暮らしを初めてから?
「読んでも、いいか?」
「え、ダメよ恥ずかしい」
「じゃあ、俺と出会う前……とか」
1冊を棚から引き抜いた。
「ちょっと、ダメ! ダメだって」
「1冊、貰えないか?」
「はぁ!? 絶対ダメダメ、ダメってば! 」
「残念」
そう言って、パラパラと捲ると、手を止めた。今となっては……だけど、知りたい。
「ダメ、ってば」
そう言って、光は俺の手から手帳を取ると、それも、他の手帳も全部……バッグに詰め込んだ。
今となっては誰も分からない、その答えが、そこにあるのかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!