25.欠片

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「体調、良くないだろ。そんなに急いで出て来て行かなくても」 「休むわよ、しっかり。それから、また働くし、大丈夫」 「な、持って行けよ」  そう言って1枚のカードを差し出す。体調が悪いのに、働かせたくはなかった。クレジットだと、使えないだろうから。 「いらないわよ。ね、再婚したら奥さんと子供に怒られるわよ。それに、あなたも後悔するでしょ」  再婚?俺が?するわけないだろ。 「出て行くなよ、勝手に」  念を押した。佐田の予想なんて当たらなければいい。 「離婚届も、一緒に。絶対だからな」  一緒にったって、今日出て行くって言われたって、俺はどうするのか。その日が来れば……俺はどうするのだろうか。 「手伝うよ」 「いいわよ、手伝って貰うほどないもの」  光はそう言ったけど、1枚のワンピース。よく覚えてる。……あの時、あの場所で……着ていた。ああ、本当、我ながらよく覚えてる。 「……懐かしいな、この服。好きだった」 「うん……」 「ああ、これも……」 「うん……」  ふと、目を移すとA5サイズにずらりと並ぶ手帳。リフィルタイプは嫌いだって、言ってたっけ。それにしても、この数。 「凄いな、これ、手帳全部置いてるんだな」 「ええ。えっと……実家から独り暮らし始めてからだから……何冊になるのかしら。日記をつけてて……」  独り暮らしを初めてから? 「読んでも、いいか?」 「え、ダメよ恥ずかしい」 「じゃあ、俺と出会う前……とか」  1冊を棚から引き抜いた。 「ちょっと、ダメ! ダメだって」 「1冊、貰えないか?」 「はぁ!? 絶対ダメダメ、ダメってば! 」 「残念」  そう言って、パラパラと捲ると、手を止めた。今となっては……だけど、知りたい。 「ダメ、ってば」  そう言って、光は俺の手から手帳を取ると、それも、他の手帳も全部……バッグに詰め込んだ。  今となっては誰も分からない、その答えが、そこにあるのかもしれない。
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