25.欠片

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 付き合ってしばらく経った頃 『スポンジみたいになってるからこそ、噛んだら出汁がじゅわーって出て、得した気分』  本当に美味しそうに一口食べてそう言った。 『食感がスポンジみたいで嫌い』  そう言った俺に対して。それからは、食卓に上がった事がなかった。結婚してからも。  光は好きだって言ってたのに。それは、覚えているからだろうか、俺が“嫌い”だと言った事を。 「高野豆腐の煮物が食べたい」  その日、光にそう言った。 「……どうして? 」 「食べたい」 「嫌いだって言ってたじゃない……」 光は覚えていた。俺が嫌いだって言った事を。 「光が好きだから」  俺も勿論、覚えてる。光に関してのほとんどの事は、自分でも関心するほどに記憶力が発揮される。  光は時々こうやって“覚えている”それとも……“思い出した”のか……。
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