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「時間を作ってくれるなら、協力しますけど? 」
そう言った佐田が決めた店で、遠慮なく注文する彼女に言った。
「今週の金曜日でお願い出来ないか」
「はぁい」
彼女は面倒臭そうにスマホを持ち上げると長い爪で器用に文字を打ち込み、その画面を俺に向けた。
『金曜日は出張です』
そう打ち込まれたメッセージ。宛先は……光。俺が頷くと、そのまま送信ボタンを押した。
しばらくすると、彼女のスマホか短く震えた。
『ありがとう』彼女のスマホには、光からそう返信があった。
出て行く。俺の出張の日を選んで。なぜ、そうまでするのか。
俺が、なぜ出張もない日にそうしたか、それは、光を休ませる為だ。俺が出張だと言うとほっとする、そんな光の為だった。俺が帰らない日があれば、光は……気持ちが楽だろうと。
……こんな日が来ないようにそうした。
出張もないのに、出張だと言っている事を、光が気づいていたなら……佐田の言う通り、俺の事を信じられなくなるのかもしれない。
『私じゃない。……あなたが見ているのは』
あの日、光はそう言った。何か誤解が生まれたということか。
いや、だけど、俺が出張だと嘘をつくようになったのより、光の態度がおかしくなる方が、先だった。分からない。
説明して、納得させたら、離婚はなくなるのだろうか。光が例え、俺の嘘など今はもう、どうでも良いと思ってたとしても。
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