25.欠片

7/10
前へ
/440ページ
次へ
 金曜日。 「じゃ、一緒に行くか」  そう言って光と一緒に玄関を出た。    エントランスを出たあたりで、ふと、光の手帳の事を思い出した。 「あ、しまった……悪い、忘れ物。ここで待ってて」  そう言って部屋へと急いで戻った。もし、この荷物を先に送ったりでもしたら……。どうしても知りたかった。1冊の手帳を取り出す。読む時間は無かった。遅くなって光が迎えに来たらまずい。数ページ、写真を撮ってすぐに光の元へ戻った  何やってるんだ、懲りないな、俺も。だけど、知りたかった。すぐに、戻って光と肩を並べて歩いた。 「今日は寒さが、ちょっとマシかな」  風があるから、寒く感じるけど、日差しは暖かい。風が髪を乱暴に散らす。 「髪、短い方がいいね」  不意に光がそう言った。優しい眼差し、自然に手を伸ばされた光の手が俺の耳の後ろを撫でる。  何かを思い出したような光の顔に、足が止まった。いや、思い出したのは俺の方だったかもしれない。  “短い髪”……それは……。髪を乱暴に戻すと、全てを打ち明けたくなった。 「光……俺……」 「柊晴……私……」  時が止まったかのような、時が戻ったかのような、永遠を思わせるような、一瞬だった。
/440ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2189人が本棚に入れています
本棚に追加