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金曜日。
「じゃ、一緒に行くか」
そう言って光と一緒に玄関を出た。
エントランスを出たあたりで、ふと、光の手帳の事を思い出した。
「あ、しまった……悪い、忘れ物。ここで待ってて」
そう言って部屋へと急いで戻った。もし、この荷物を先に送ったりでもしたら……。どうしても知りたかった。1冊の手帳を取り出す。読む時間は無かった。遅くなって光が迎えに来たらまずい。数ページ、写真を撮ってすぐに光の元へ戻った
何やってるんだ、懲りないな、俺も。だけど、知りたかった。すぐに、戻って光と肩を並べて歩いた。
「今日は寒さが、ちょっとマシかな」
風があるから、寒く感じるけど、日差しは暖かい。風が髪を乱暴に散らす。
「髪、短い方がいいね」
不意に光がそう言った。優しい眼差し、自然に手を伸ばされた光の手が俺の耳の後ろを撫でる。
何かを思い出したような光の顔に、足が止まった。いや、思い出したのは俺の方だったかもしれない。
“短い髪”……それは……。髪を乱暴に戻すと、全てを打ち明けたくなった。
「光……俺……」
「柊晴……私……」
時が止まったかのような、時が戻ったかのような、永遠を思わせるような、一瞬だった。
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