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車にクラクションを鳴らされ、現実に帰った。
「はは、道の真ん中だったな」
「本当、何してるのかしら」
そう言って笑い合った。
「気をつけてね」
「ああ」
別れ際
「……早く、帰るから」
そう言った。カモフラージュのスーツケースは軽く過ぎて、アスファルトの上では安定しない。
早く、帰るから。……だから……約束を守ってくれないか?
そう言ってしまえば、光は今日を諦めて、また違う日に同じ事を繰り返すのだろうか。
────
そのメッセージに気付いた時には、時計はもう定時近くになっていた。
『光さん、今日の午前中で退職されました。念のため、連絡しときます』
伊東からだ。思わず頭を抱えた。幸い急ぎの用はなかった。直ぐに佐田を捕まえると、定時に会社を飛び出した。
少しでも引き留める為に、タクシーの中から電話をさせた。
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