25.欠片

8/10
前へ
/440ページ
次へ
 車にクラクションを鳴らされ、現実に帰った。 「はは、道の真ん中だったな」 「本当、何してるのかしら」  そう言って笑い合った。 「気をつけてね」 「ああ」  別れ際 「……早く、帰るから」  そう言った。カモフラージュのスーツケースは軽く過ぎて、アスファルトの上では安定しない。  早く、帰るから。……だから……約束を守ってくれないか? そう言ってしまえば、光は今日を諦めて、また違う日に同じ事を繰り返すのだろうか。 ────  そのメッセージに気付いた時には、時計はもう定時近くになっていた。 『光さん、今日の午前中で退職されました。念のため、連絡しときます』 伊東からだ。思わず頭を抱えた。幸い急ぎの用はなかった。直ぐに佐田を捕まえると、定時に会社を飛び出した。   少しでも引き留める為に、タクシーの中から電話をさせた。
/440ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2189人が本棚に入れています
本棚に追加