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「もしもし? 佐田ですけど」
『ええ』
直ぐに光が電話を出た事にほっとした。
「逃げる準備は万端ですか? 」
佐田は全く言葉を選んでいなかった。
「だって、ずるくありません? 結婚してるのに、普通そんな別れ方、します? 」
『……あなたにも都合が……私が居ない方が』
「それは、そうですけど……逃げるだけなんだもん。情けない」
『あ、あなたには…………』
「ええ、分かりませんね。だって、本音を言わないんですもん。それで分かれって?何ですか、それ。相手の気持ち? 馬鹿ばっかり。自分を守ってるだけでしょ?」
『あなたに関係ないでしょ』
「関係ありませんねぇ。だけど、巻き込んだのは、あなたでしょ? 」
佐田の通りやすい声に反して、光の落ちついた声は電話越しでは尚更聞こえにくく、俺には所々しか聞こえない。……だけど、まだ……出ていってはないのかもしれない。この電話で少しでも足止め出来れば……
「聞かせてもらえます? 本音。彼を……愛してるの? それとも、いらないの?」
……佐田の質問に、急いてた気持ちが一瞬、止まった。
……本音?
『……してる』
「じゃあ、なんで? 」
じゃあ、なんで?それなのに、なぜ去ろうとするのかという佐田の質問。
それ……の部分に入る言葉……
光は!?
何て、何て……言ったんだ。
『彼の………』
「ですって、聞きました? ちょっ」
佐田の手からスマホを奪う様に取ると
「光! 動くな! そこから! 絶対だ」
そう叫んだ。
それから、タクシーを止め、佐田に財布を投げた。
「払っててくれ」
そう言って、タクシーを下りて、なりふり構わず走った。
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