25.欠片

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「もしもし? 佐田ですけど」 『ええ』  直ぐに光が電話を出た事にほっとした。 「逃げる準備は万端ですか? 」  佐田は全く言葉を選んでいなかった。 「だって、ずるくありません?  結婚してるのに、普通そんな別れ方、します? 」 『……あなたにも都合が……私が居ない方が』 「それは、そうですけど……逃げるだけなんだもん。情けない」 『あ、あなたには…………』 「ええ、分かりませんね。だって、本音を言わないんですもん。それで分かれって?何ですか、それ。相手の気持ち? 馬鹿ばっかり。自分を守ってるだけでしょ?」 『あなたに関係ないでしょ』 「関係ありませんねぇ。だけど、巻き込んだのは、あなたでしょ? 」  佐田の通りやすい声に反して、光の落ちついた声は電話越しでは尚更聞こえにくく、俺には所々しか聞こえない。……だけど、まだ……出ていってはないのかもしれない。この電話で少しでも足止め出来れば…… 「聞かせてもらえます? 本音。彼を……愛してるの? それとも、いらないの?」  ……佐田の質問に、急いてた気持ちが一瞬、止まった。  ……本音? 『……してる』 「じゃあ、なんで? 」  じゃあ、なんで?それなのに、なぜ去ろうとするのかという佐田の質問。  それ……の部分に入る言葉……  光は!?  何て、何て……言ったんだ。 『彼の………』 「ですって、聞きました? ちょっ」  佐田の手からスマホを奪う様に取ると 「光! 動くな! そこから! 絶対だ」  そう叫んだ。  それから、タクシーを止め、佐田に財布を投げた。 「払っててくれ」  そう言って、タクシーを下りて、なりふり構わず走った。
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