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「何だ、結局行かせたの? 」
佐田が俺の胸に財布を押し付けてそう言った。
「ああ 」
「家、お邪魔してもいいですか? 」
「……駄目だ 」
「ふんっ、じゃあご飯くらい食べさせてよ。もう、そこでいいから 」
そう言った彼女と、直ぐ近くの店へ入った。酒もないような、食事だけの店へ。
「ねぇ、柊晴さんって、奥さんに愛はあるの? 」
「……当たり前だろ。何の為に……」
「何の為にってのは、私が言いたいセリフですけどね。面倒臭い。だいたい『当たり前』って何よ。私は、“愛してるか”聞いたんですけど? 」
「……愛してる 」
「“今”も? 」
「どういう意味だよ」
「気持ちは変わるでしょ? 昔好きだったのを今も好きだと思い込んでるんじゃないの? 今あるのは……情。だったりして」
……情……
「だって、あまりにも距離があるでしょ。夫婦ってもっと生々しくてもいいのに。まるで、壊れものを扱うみたい。美術品のコップみたい。使う為に作られたのに、飾られるだけ。使うのは、違うコップなの? 」
「してない、浮気は 」
「へぇ、でも飾られるだけの妻は……逃げちゃった。過去に価値を置かれたコップなんてねー」
「光は……何て言ったんだ? さっき」
俺を……
「聞こえなかったんだ。さぁ、何て言ったのかな。何で私が教えてあげなきゃなんないわけ!? ……自分で、聞けば!? 」
おもいっきり、俺を睨み、語尾を強めた。
「夫婦なんでしょ? ……まだ」
「……悪かった」
「ええ、本当にね。やってられるかっての。馬鹿じゃないの」
バッグを持って立ち上がり、俺を見下ろして言った。
「格好つけて、綺麗な思い出が欲しいの? それとも、醜態さらして望む未来が欲しいの?」
最後にもう一度おもいっきり俺を睨むと店から出て行った。
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