26.未来への約束

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 マンションに入ると、光の部屋は何も無かった。俺の部屋からは仄かに……エタニティの香り?……開いた引き出し。ここから、慌てて出ていったのだろう。  これ……か。香りの元となるアトマイザーを手に取った。その直ぐ横にアリュールのボトルが2本。1本は使われた形跡がない。光がここに入れたのか?なぜ、この香りのボトルを光が持ってたのか。  それから、引き出しの奥に目をやった。……ない。目だけでなく、そこにある物を動かして確認する。ここにあったはずだ。指輪、カード……それから……もう一つ。  ……ない。婚姻届がなかった。あの日、光と書いた婚姻届が無かった。  この引き出しには、過去が詰まっていた。失われた過去が。ここから、出したのはこの使いかけのアリュールだけだ。見つからない過去に触れてもらう為に、付けたこのアリュールだけだ。  香りで気付いたのか?それとも……思い出した……のか。  奥のケースに手を伸ばす。ケースを開けて、その中にあるリングを見つめた。  ダイヤモンドの輝きは、あの頃のまま。  永遠(エタニティ)の香り。永遠の輝き。  ……変わらない。あの頃と、何も。……そうだ、俺の気持ちも。  永遠とは、何だろう。変わらない。あの頃と、何も。
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