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私は“今”の柊晴を……愛している。
マンションの前には、随分早く着いた。だけど、分かっていた。柊晴は、絶対にもうそこにいると。
柊晴は、待ち合わせには必ず先に来ていた。どうしても私を待たせる時は店の中で待つように、そして、必ず店まで迎えに来てくれた。単に過保護で、心配性で、紳士だなって……思ってた。なぜ、柊晴がそうなったのか今なら……わかる。
「信じてた」
私が目の前に立つと、柊晴がそう言った。
「私は……信じられていなかった」
そう言った。
「俺の……せいだな」
「私の……せいでしょ」
お互いそう言って笑った。
「あ、7時の待ち合わせ、間に合う」
柊晴にそう言った。
「え? もう……」
「行きたい所があるの、来て」
そう言って、柊晴の背中を押した。話さないといけない事は、沢山あって、先ずは向かった。道のりで察したのだろう。柊晴の足取りが重くなった。いくらゆっくり歩いても、マンションからそこまでの距離で“約束の7時”に着くには十分だった。早く着きすぎた、私達にとっては。
重量感のある、木のドアをそっと開けた。一歩踏み入れる私に、柊晴が続く。
いつかの逆。だけど今日は二人一緒だ。
カラン
柊晴の体が全部店内に入るとドアは静かに閉まり、ドアベルがもう一度、心地好く響いた。
それからは……静かに店内を、確認した。
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