28.再築

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「ねぇ、ここは……私が……泣くとこじゃない? 」 「うっせ」  目を潤ませ、そっぽを向く柊晴に抱きついた。 「そんな、柊晴も、愛してる」 「……俺も。光、愛してる」  あの頃と同じ香り。それは、4年前の記憶か、あの喫茶店での記憶か……いつの間にか分からなくなってしまったけれど  ただ、愛しい。ただ、愛しい過去で……今に繋がっている。失くした記憶があったとしても、伝えてくれる人がいる。共に、時を刻む。代わりに覚えていてくれる。 「おめでとう、光。今年も、言えた」 「ありがとう。32歳になっちゃった」 「すぐに、追い付く、さ」 「年下も悪くないわね、可愛い、泣き虫で」  居心地が悪そうに、だけど……嬉しそうに、それから涙目を誤魔化すように…… 「……光……よし、若さだけじゃないって……」  柊晴がそう言って、唇から……首筋、次々と口づけていく。……結局、また、泣き出した柊晴に笑った。お互いの涙を拭っては、笑った。  その日は、永遠と、狂おしい程の魅惑的な香りの中で何度も抱き合った。
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