28.再築

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 切り干し大根の煮物と、高野豆腐の煮物。千切りキャベツに豚カツ。ごく普通の食卓に並ぶものばかり。だけど、一緒に過ごす事が“ごく普通”になる為の第一歩には、無理をしないのが、一番だ。  柊晴は嫌いなはずの高野豆腐すら、嬉しそうに食べている。食事が終わると、ソファに並んで座った。 「もう、アイスコーヒーが美味しい季節になるわね」 「そうだな」  些細な事で目を合わせて笑い合う。 「私の知らない事を教えて」  そう言うと、柊晴は順を追って話してくれた。  ……柊晴と京也くんは高校からの付き合いであること。柊晴と春香は大学のゼミが一緒だった事。大学を卒業して数年後の集まりで柊晴と春香は再会し、集まりの後に立ち寄った京也くんの喫茶店で、春香が京也くんに惚れ込み、猛アタックの末に、交際が始まった事。  ……ここらへんは、春香に聞いたら?と、付け加えた。その後、京也くんを見せたくて私を喫茶店に連れてきた時に、私と柊晴とは出会った事。一目惚れだった。と、恥ずかしそうにそう言った。 「だから……再現したつもりが、本当にもう一度一目惚れしたみたいになった」  そう言って、恥ずかしそうに、だけど嬉しそうに、そして、やっぱり涙目で笑った。  1年の交際期間で結婚を決め、そこから1年後に結婚する予定だった。だけど、私が事故に合い、一時的に記憶が曖昧になった。だから、もう一度、出会うところから始めた。  そして、記憶を失う前の予定通り、その日に結婚した。そう話してくれた。  ──つまり、私は1年足らずの記憶が飛んでいる。正確に言うと飛んでるというより、曖昧になっているに近い状態らしい。
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