29.次の約束

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「それにしてもさぁ、春香の甘い香りが、常に柊晴からしてたよ」  今日は、喫茶店(ここ)の珈琲の香りを邪魔しない為にか春香から甘い香りはしなかった。 「あれね、廃盤になったし、ちょうど使い切ったんだ。……香りは、今は……ちょっと」  そう言うと、赤くなって俯いた。左手をそっと、下腹に当てている。 「え! 春香……」 「うん」 「おめでとう! 京也くんも、おめでとう! 」 「うわぁ、嬉しいもんだな」 「ああ。そうだな」  京也くんも、嬉しそうに微笑んだ。この二人がパパとママになるなんて。この二人も、話し合って、解決したのかな?  そう思っていたら 「香水、つけなくなって嬉しい」  京也くんが、ぼそり言った。 「え、何で!? 京也くんがあの匂い好きだって言うからつけてたのに! 」  春香が言い返す。少しばかり空気が変わった。 「……俺が? まぁ、嫌いではないけど。いつ? 」 「初めて柊晴くんと、ここへ来た時。甘くていい匂いだねって……」 「ああ、ただの営業トークだよ。いちいち覚えてない」  そう言った京也くんに、春香の顔が強ばった。 「……珈琲の香りを邪魔するからって、ここに、来る日はつけなかっただろ? 」 「まぁ、結構強い匂いだし、急に用事で来る時以外は……」 「俺は、ずっと店だからさ。春香が、店に来てくれる以外は二人の時間があまり取れない。なのに香水つけるんだもんな。今日も……来てくれないのかって、その香りがする度、うんざりしてた」  京也くんの言葉に、春香が真っ赤になった。 「な、何よ。それ……こっちは好きだって言うから……近づきたくなったりするかなって……」
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