29.次の約束

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 その会社の定時を少し過ぎたくらいにその人は会社から出てきた。 「……俺の人生で、美女に待ち伏せされるなんて……」  伊東くんは、いたずらっぽく笑ってそう言った。 「はいはい、100万回くらいあるでしょ、あなたなら」 「まぁ、ね。だけど……見つけて胸が痛くなるのは、誰かさんだけだなー」  そう言った。 「食事、行きましょう。今日は美女待たせてない? 」 「ええ、あなたも……」 「柊晴、今日は若い子とデートなの。だから私も……」 「OK、行きましょう」  炭火で焼いた鶏の匂いが、食欲をそそる。 ──  少し鼻を近づけるも、いつもの匂いがしない。 「香水、つけてないの? 」 「ああ、俺がね、あの香りで……光さんを思い出すもんでね」  複雑そうにそう言って食べ終わった串を、串立てにさした。 「……伊東くん、ありがとう」  私がそう言うと、片手で目に庇をつくるように、自分で、私への視線を遮った。 「……別に」  そう言った伊東くんに 「見守ってくれて、ありがとう」 「……何だよ、礼を言われる事なんて……」 「うん、ありがとう」 「……下心しかねぇ」 「うん、ありがとう」 「……柊晴さんの事も、俺の事もどっちも忘れたんなら…俺にもチャンスはあるって……」 「うん、でも……お陰で、変わらずに働けた。家族に止められる事も、会社を辞めさせられることもなく。伊東くんがいてくれたから」
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