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「敵うわけ、ないんだ」
伊東くんは、両手で顔を囲い
「俺が光さんを好きだって分かってても、『光をお願いします』そう言って、俺に頭を下げた柊晴さんに、俺が……敵うわけないんだ。下心で引き受けた俺が……」
絞り出すように、そう言った。
「うん……」
「だから、ただの……下心で……」
「ありがとう、伊東くん」
私がそう言うと
「ちぇ、何だよ。夫婦揃って……」
そう言って、私を睨むと
「良かったね」
そう言って、今度は、仕方ないような顔で……笑った。
「ありがとう」
──あの日、伊東くんは私の夫を『柊晴さん』って呼んだ。彼も私を見守ってくれたうちの一人だった。
……店を出ると、まだ少し明るい
「日が長くなったなぁ」
「本当、温い」
「……イケメンのご主人、迎えにくんじゃねぇの? 」
「……来ないわよ」
「来たとしたら、よっぽど俺に脅威を感じ……ぶっ」
「何? 」
伊東くんの視線の先に……柊晴の姿。……早すぎない?
「ほら、結構、俺……いい仕事したんじゃね? ま、いいか、こんな……役も」
そう言って私を引き寄せると、そっと頬に口づける。
「ざまあみろ」
そう言って笑う。
「……伊東くん、私やっぱり……伊東くんのあの香り、好きだな。きっと、ずっと……あなたを思い出すからね」
「はいはい、あっこでイケメンがやきもきしてる、行けよ」
柊晴の方へ向かうと、柊晴が伊東くんに一礼した。私が柊晴の所へ到着すると
「……まぁ、あれくらい……」
小さくそう言って
「ああ、やっぱ、ムカつく! 」
直ぐに覆して、私の頬に口づけた。
「あ、伊東くんと間接キスだね」
私がそう言うと、手の甲で唇を拭った。
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