29.次の約束

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「敵うわけ、ないんだ」  伊東くんは、両手で顔を囲い 「俺が光さんを好きだって分かってても、『光をお願いします』そう言って、俺に頭を下げた柊晴さん(あの人)に、俺が……敵うわけないんだ。下心で引き受けた俺が……」  絞り出すように、そう言った。 「うん……」 「だから、ただの……下心で……」 「ありがとう、伊東くん」  私がそう言うと 「ちぇ、何だよ。夫婦揃って……」  そう言って、私を睨むと 「良かったね」  そう言って、今度は、仕方ないような顔で……笑った。 「ありがとう」  ──あの日、伊東くんは私の夫を『柊晴さん』って呼んだ。彼も私を見守ってくれたうちの一人だった。  ……店を出ると、まだ少し明るい 「日が長くなったなぁ」 「本当、(ぬる)い」 「……イケメンのご主人、迎えにくんじゃねぇの? 」 「……来ないわよ」 「来たとしたら、よっぽど俺に脅威を感じ……ぶっ」 「何? 」  伊東くんの視線の先に……柊晴の姿。……早すぎない? 「ほら、結構、俺……いい仕事したんじゃね? ま、いいか、こんな……役も」  そう言って私を引き寄せると、そっと頬に口づける。 「ざまあみろ」  そう言って笑う。 「……伊東くん、私やっぱり……伊東くんのあの香り、好きだな。きっと、ずっと……あなたを思い出すからね」 「はいはい、あっこでイケメンがやきもきしてる、行けよ」  柊晴の方へ向かうと、柊晴が伊東くんに一礼した。私が柊晴の所へ到着すると 「……まぁ、あれくらい……」  小さくそう言って 「ああ、やっぱ、ムカつく! 」  直ぐに覆して、私の頬に口づけた。 「あ、伊東くんと間接キスだね」  私がそう言うと、手の甲で唇を拭った。
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