2189人が本棚に入れています
本棚に追加
ケーキを2つ買って、春香のマンションへと向かった。
「あ、私がするよ」
そう言って、お皿にケーキを出す。どちらが、どちらのケーキか、私たちは言わなくても分かる。私はアイスコーヒー、春香は麦茶。
「悪阻とか……大丈夫なの? 」
「うん、これかなぁっていうのはあるけどね、大丈夫」
春香は妊娠を機に仕事を退職し、1日の半分は京也くんの喫茶店で手伝いをしている。少し膨らみ始めたお腹を愛おしそうに、撫でた。
「ごめんね、春香」私がそう言うと
「いいって、もう。確かに、自分の旦那が違うシャンプーの匂いプンプンさせて帰ってきたら……キツいよね。私も、考えてなかったわ」
「うん、そっちより、タイムトラベルを疑わなかった事に……笑える」
「ああ、京也くんだから、ね」
「うん、京也くんがそうだと言えば、そうなんだと思っちゃう。何、あのリアル感。落ち着き、心地よい間! 」
「私もさぁ、ずっと……京也くんは、光が好きなんじゃないかなって……」
「えぇ!? ないない! 何それ」
「落ち着いた女性が好きだって言ってたし、ずっと光の心配してた」
「それは、京也くんが春香の作戦引き受けたからでしょ? 」
「うん、今なら分かるんだけどさ。……ちょっとだけ、出してくれるようになったんだよね。……その、私を好きだって、態度に」
そう言って赤くなった。覚えては無いけれど、春香が京也くんを追いかけてた姿が目に浮かんだ。
「あの日、喫茶店でね……春香の事、嬉しそうに話してたよ」
「うん、柊晴くんは、分かりやすくていいなって思ってたけど……はは! やっぱ面倒臭いから、嫌だわ」
春香がそう言って笑う。自分のケーキの皿を引き寄せて
「私達の好みって、全く違うじゃない? 」
そう言った。
「そうね、私はピスタチオのムース……絶対選ばない」
「この、深みが最高なのよ。光の苺のショートケーキなんて、ベタ過ぎるでしょ」
「このふわふわのスポンジと苺の酸味が、最高なのよ」私もそう言い返した。
「あの落ち着いた、深みが……」
「あの、全部が顔に出る、甘さ……」
「「私達の好みって、全く違う」」
そう言って笑い合った。
「そうだ、春香! もう一つ聞きたい事があるんだった! 」
「いいよ、何個でも聞いて」
「27歳に見える、ベースメイク、何使ったの!? 」
「お、それね」
春香がニッと笑って1本のプライマーを得意気に取り出した。
最初のコメントを投稿しよう!