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「散歩でも行くか」
柊晴にそう言われ、外へ出た。
暖かい、から、暑いに変わりかけた季節の繋ぎ目の風。もうすぐ夏がやってくる。
「今年は、桜……一緒に見れなかったわね」
青葉の桜並木、その1本を見上げた。
「来年、見よう。来年だけじゃなく、ずっと……毎年」
柊晴は、まるで満開の桜を見上げるように目を細め、上を向いたままそう言った。
「桜って本当に日本人に生まれて良かったって思うくらい、心が踊る。惑わされる。雨も風も花びらを散らす物が嫌いになるくらい。少し、悲しくもなるのよね、ほんの……少し。ずっと満開でいられないのが……切ない」
「また咲くの知ってるだろ。散るときの切なさに……また来年って希望が入ってる。毎年毎年、変わらずに……満開の日がやってくる」
「……そうね、また……来年」
「そ、来年も桜は咲くって確信してる。毎年、変わらずに綺麗だなって思う。
繰り返される4月の桜がいつのものか分からなくなっても、桜を見た時の気持ちは……その度に思い出せる。いつか、分からなくなる……それほど一緒にいたい」
「……うん」
風が乱した髪を柊晴が優しく撫でて整えてくれる。
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