30.再建

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 柊晴は時折こうして“落ち着いた大人の男性”に戻る。私が結婚した方の柊晴に戻る。穏やかに話し、優しく笑う。私が“落ち着いた男性”がいいって言ったから。それだけでなく、年齢的なものもあるかもしれないどちらが本当の柊晴か分からなくなるけれど、区別する必要も、もうないのだ。  私をじっと見る癖は直らないけれど……以前のように心配するような視線ではなく 「……あんまり、見ないでくれる? 」  私は、柊晴によくそう言った。 「あ、見てた? ……ごめん」 「そんなに、見て貰えるような、顔じゃありませんよーだ」  そう言った私に、静かに微笑んで 『……綺麗だよ。だから、つい……』  新婚当初はそう言った。今は…… 「は? 見るわ、そら。見る、見るからな、見る! 」  随分と馬鹿っぽく、変わったもんだ。だけど、それが……おかしくも、愛しい。 「目も合わせて貰えなかったからな。ちょっとぶつかっただけで、ビクーッてするし」 「あの頃は心配で見てたんでしょ? 」  柊晴が、私と合わせていた目をふっと外し 「新婚当初はね、事故から1年てとこだろ? ……もし、何かあったら……って……」  もう一度、私に目を合わせ微笑んだ。生きいてくれて良かった、そんな瞳で。
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