30.再建

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「起こってもない不安に、幸せを見失ってたら、意味ないな」  よっぽどだった。柊晴にとってそれほどのことだった。 「だけど、また忘れられたらって不安が一番だったかもしれない。でも、俺だけじゃなく京也も伊東のことも同じように忘れた。ほっとしたのも事実だけど、俺だけは覚えて欲しかった」 「……ごめん……」 「いや、いいんだ。また俺を好きになるんだって、分かったからな。いつも春香が言ってた“大丈夫、光は柊晴くんに夢中だった”それに、救われた。……それだけが……」 「夢中よ、今も」  そう言って柊晴の背中に添う。 「ああ、知ってる」 「帰りましょう、柊晴。あなたの好きな……高野豆腐の煮物、作ってあげるから」 「覚えて欲しかったね、嫌いな事を」 「あはは! 好きになればいいでしょ? 」 「……ああ、そうだな」 「お買い物、行ってくるわね」 「一緒に行く。で、今日は俺が作る」 「あー、高野豆腐が嫌なんでしょー? 」 「まさか」 「何作ってくれるの? 」 「光の好きなもの」 「何だ、結局、高野豆腐か」 「……」 「ふふ、柊晴の好きな串カツにしましょうか。揚げながら食べるの」 「いいね、光の好きな、レンコンも揚げよう」 「付け合わせは……」 「もう、高野豆腐でいいです」 「はは、 揚げちゃおうかな」 「……いいね」  柊晴の複雑な顔!何だか可笑しくなって、二人で顔を見合わせて笑った。重いビニール袋を柊晴が下げて、一緒に家に帰る。日常が戻る。一緒に食事を取る。そんな日常が。
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