31.光

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 大学を卒業して数年、発起人は誰だったか。 「久しぶりに集まらないか」  ゼミ仲間からそんな連絡があった。予定もないし、行こうか。そう思って参加した。  大学ぶりの奴らがほとんどで、懐かしく会話を交わすうちは楽しかった。酒が進むに連れて、雲行きがあやしくなり、“まずい”そう思った頃、機転を効かせた一人の女子が助け船を出してくれた。酔いが回りきった酔っぱらいに絡まれ困っていた。 「ごめん、二人で抜けるね」  ぐいっと俺の腕を持って立たせると、俺にべったり貼り付く女子を引き剥がし 「そういうことなの。ね? 」  そう言って俺に目配せした。男女が二人で抜ける意味を雰囲気で伝える。 「ああ、悪い」  言われるままに二人で店を出た。冷やかされたり、毒づかれたりしたけれど  俺を連れ出したのは、牧野春香。サバサバしてて、話しやすい、変に女も出さないし……まぁ、付き合いやすい女だった。 「あの子、絡むと長いのよ。ねぇ、安易に『彼女いない』なんて言わない方がいいわよ? 柊晴くん、“気軽につきあってくれそう”なんだから」  ……はっきりは言うけど、悪意はないのだろう。 「ああ、以後気をつけます。助かった、さんきゅ」 「……あー、コーヒー飲みたい。……でもさっきのメンバーに会っても気まずいし、帰って飲むかな」 「あ、いい店あるぞ。絶対会わないような。コーヒーはめちゃめちゃ旨いとこが」  大して乗り気ではなかった集まりに顔を出した事、そこで春香に再会した事。春香が『コーヒーが飲みたい』そう言った事。  全てが……繋がっていた。その瞬間から。
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