31.光

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 奥の席から春香とその女性の話し声が聞こえた。その女性の落ち着いた声は心地好い響き。何故か春香よりその女性が気になったのを覚えている。 「ここを気に入ってくれたみたいで、春香がいない時も春香の友達が顔を出してくれるんだ」  ……それってその友達も京也を気に入ったとかじゃないのか?そう思ったが、京也の言い方からそうでもなさそうなのが分かった。しばらくすると、春香がこちらへやってきて 「そろそろ行くね」  そう言っては、京也と名残惜しそうに話している。  チラリと奥の席に目をやると、そこから動けなくなった。ちょうど、その春香の友人が立ち上がり、俺の前を通りすぎる。  それまでの動き全てがスローモーションのようで……彼女から目が離せなくなった。息も出来ない。 「京也くん、ごちそうさまでした。春香、先に出てるね」  そう言って俺の前を通りすぎるその瞬間、気づけば俺は彼女の腕を掴んでいた。俺に向けられた、見開かれた目すら、綺麗だなぁって……思った。  さっきと同じ香りが鼻を擽る。  ここまで近寄らないと分からないくらい控え目な香りだと言うのにその香りに心臓が痛いくらいに高鳴った。
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