31.光

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「ごめん、こいつ……どうしたんだろう」  そう言って、京也が慌ててカウンターから出て来て、俺と彼女の間に入り、俺の手を彼女から引き剥がした。 「あ、本当だ……すいません」  そう言って謝った。見知らぬ男に急に腕を掴まれたなら、相当な恐怖だろう。 「はは! 可愛かったから、声掛けたかったんじゃないのか? 」  京也の言葉に言い返すことすら出来ずに俯いた。彼女の姿を正面から見た瞬間から俺の思考は正しさが何かを見失った。固まったまま動けない。 「と、いうことだからさぁ……少し喋って行ってやってくれない? 」  京也がそう言ってくれて、顔をあげた。羞恥心より、何より……有り難かった。彼女が春香の友人であったことが。 「ええ、でも……」  彼女は春香に助けを求めるような視線を送った。 「大丈夫よ、光。とても、いい人だから」  春香がそう言ってくれて、彼女は渋々頷いた。こんな風に女性に渋々といった態度を取られた事も無かったがその前に女性にこんな態度を取った事も無かった。話せなくなるほどに緊張することも。 「ここから見てるから大丈夫だよ」  京也がそう言って、ようやく彼女は少し微笑んだ。  彼女の笑顔に俺はまた……衝撃が走った。
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