31.光

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 苦しくなるような感情。鼓動。 「あの……」  黙ったままの俺に彼女が困ったような目を向けた。それはそうだろう。急に腕を掴んで立ち止まらせた男が、不機嫌なままに口も開かない。  頭に血が上り、心臓も壊れそうなほど早い。こめかみまで脈打って、頭痛がしてきそうだ。実際に壊れたんじゃないかと思う。遮断された思考回路が、何を言っていいのか、何を言うべきか指令を全く出さないのだ。ふぅと小さくため息をついた彼女が 「……京也くんのお知り合いであれば、常連の方……? 」  そう聞かれたのに、ほんの少し、眼球を動かせただけだった。 「春香……あ、京也くんの彼女なんですけど、春香と約束をしていて……でも、楽しそうだし、悪いかな。あと少し、ここにいてもいいですか? 」  京也と楽しそうに話す春香を、確認し彼女がそう言った。 「……あの、京也とは高校の同級生で……春香とは大学でゼミが一緒で……」 「あ! もしかして……春香が言ってた大学の友達ってあなただったのかも」  俺が“春香の知り合い”だと分かると、幾分彼女はほっとしたように肩の力を抜いた。 「……ああ、春香は俺の事をなんて? 」  彼女の表情から、きっと……プラスになるような情報として伝わっていない事が分かった。 「……モテる人……だって」  言葉を選んだだろう複雑な顔でそう言った。……絶対に、ナンパ野郎だと思われた事だけは理解した。
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