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それからは、必死だった。
周りから見たら滑稽なものだったかもしれない。振り返ってみても、顔が熱くなる。だけど、後悔はない。彼女が、手に入ったのだから。必死だった。脇目もふらず。遂には春香も京也も俺をからかうのを諦めて協力してくれるようになった。
「光が店に来たら、絶対に連絡くれ」
そう京也に頼んだ。
連絡先を聞いてない。だから、偶然を装うしかなかった。軽いと思われたくなかった。
「あのなぁ、連絡くれっつってお前、毎日来てるじゃねーか。光ちゃんは静かな空間が好きなんだろ? 」
「そうそう、柊晴くんがいると、雰囲気がうるさい 」
「光は、静かな男が好きなのか? 」
「そう、落ち着いた大人って感じの……」
春香がほんの少し、京也に視線を走らせて、複雑な顔をした。
……なるほど、京也みたいな落ち着いた男か。
「連絡先を聞けばいいだろ、回りくどいことしてないで」
「……ナンパしたと思われてる 」
それに、春香が笑いだした。まだあの光景は笑えるらしい。
「言動だけじゃなく、顔も、少しチャラいでしょ? もう少し、髪切ったら? 」
……なるほど。京也も短くはないけど……京也の顔は“軽く”はない。
翌日には髪を切ってきた俺に、二人がまた笑ったけれど。兎に角……必死だった。
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