32.ドアの外

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 “君は僕の太陽だ”  なんてキザな台詞は今やジョークで使われるもので、実際に使う奴などいないだろう。そう思っていたのに、似たような例えをしてしまう。  俺にとっての(あきら)は……冬の寒空の分厚い雲から太陽が落とす、一筋の(ひかり)のようだった。胸に落とされた(ひかり)は暖かく、そこからみるみる広がっていく。  真冬のかじかんだ手でカイロを胸に当てたような感覚。 「……今度は……外で会いたい」  光はそう言って、二人分のカップを京也のいるカウンターへと返した。京也と何か話すと、俺のいる場所へと小走りで戻る。  ……少し頬が赤い。  京也は、俺を見ると、ニッと笑い“行けよ”と顎先をほんの少し動かした。  重量感のある木のドア。  カランとドアベルを鳴らして開けると、光が先に外へ出た。  夕暮れの空。一筋の光が注ぐ。  胸だけでなく、目頭も熱くなったのを覚えてる。
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