33.白いページ

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 誰もが慣れない雪に、家にいれば良かった。今ならそう思う。  屋根のある場所で光をそこで待たせた。雪に濡れるといけないから、一人で車を取りに行った。覚束ない道路の状態に思い直して、光を待たせている場所へと戻った。車は危険だ。近くのスーパーで何か買って家で……  “危ないから、やっぱり家で”  そう言おうと口を開く少し前に、光は戻って来た俺の姿に、屋根のある場所から一歩、歩道へ出た。そこへ凍結した道にスリップしたバイクが突っ込んだ。  一瞬の出来事だった。 『真っ白な雪に、血の赤が目立っちゃうね』  北海道で、光が言ったそんな言葉を思い出していた。白のタイルの上にうっすら積もった白い雪。  誰かが呼んだ救急車の音さえ聞こえない。暗くなりかけた時間帯でさえ、はっきりと見えた。  じわじわと光の下へ広がっていく赤い色……好きで好きで好きで……怖いくらいだった。  失うという恐怖に囚われた。耳鳴りのように聞こえる救急車の音、駆けつける人々。  現実かどうかも分からない。
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