33.白いページ

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 長くて綺麗な髪は無残に切られていたけれど、命に別状はない。それならば、そんな事はどうでも良かった。  ──翌朝、面会時間開始と同時に春香と病室へと入った。 「あれ、春香どうしたの? 彼氏? 」  俺を見てそう言った。 「……」  何かがおかしい。異変にはすぐに気づいた。長く寝ていたので、少し錯乱が見られるのだと医師は言った。  ……光は俺を覚えていなかった……  毎日少しづつ、言ってる事が過去と混ざっているのか、その後も混乱が見られ病院でもう一度検査をしてもらったが、異常はなく、そのまま退院となった。  無理に思い出させるように刺激はしないように。医師からはそう言われた。 そのうち落ち着くでしょう、ということだった。  やがて光は怪我をした事すら、忘れてしまった。  錯乱状態は定まった。その事故から約1年程の記憶を抜かすという形で。全くすっぽりと抜けているわけでは無さそうだった。所々……どういうことか、覚えている出来事もあった。ただ、その期間に出会った人間のことは覚えていないようだった。
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