34.誓い

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「会社側としては、クビには出来ない。自主退社という形を取ってもらうしか。ですから、彼女が今まで通りの勤務が出来るなら問題ありませんが」  光の会社の人間からはそう言われた。今まで通りの勤務が出来るかは、俺には分からない。そこに違和感を感じるとしたら光自身なのだから。 「……大丈夫っしょ。ここ数年変わってない部分だし。あ、ちょっと外行ってきまーす」  俺が帰る少し前に、その若い男が通りすがりにそう言った。同時に会社を出る事になる。  エレベーター内で二人になると 「光さんの、身内の方? 」  そう話しかけて来た。  ……身内……ではないな。忘れ去られたとは言えず 「婚約者です」  そう言った。“恋人”の関係では会社まで来るのは無理がある。今は……これが無難か。 「ふぅん、詳細……聞きたいんですけど、構いませんか? 」  これが、俺と伊東との出会いだった。 「イケメンですね」  なんて、軽口を叩く。決して自分は劣らないとでも言いたそうな、挑戦的な眼差しだった。
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