35.計画

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「仕事の方は、問題ないと思いますが……もう一つ」  お互い察しているだろう。その話だった。 「光さんは、あなたの事は……」 「覚えて、いません」  それなのに、結婚をするのか。そう聞かれる事はなかった。 代わりに 「彼女が最善であるよう、協力します」  そう手を差し出して来た。俺もその手に自分の手を合わせた。 「光を宜しく……お願い……します」  彼にそう頭を下げた。  心の引っ掛かりは無理矢理にでも無視した。優先すべきは、光の生活だ。 だから、何と言おうと彼の存在は有り難かった。立ち去る彼の背中が見えなくなると、交わした握手の右手に残る熱が消えるまで自分の手を見ていた。  単なる厚意ではない。若くて、エネルギッシュで、光の無事に同じように安堵する。  光の無事に、連絡を待つだけだった彼も辛かったのかもしれない。
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