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誰かの倒したグラスが、床に落ちて砕けた。その衝撃音で我に返った。
……ああ、何だ、またぼーっとしてたのか。テーブルの白いクロスから、赤ワインが滴る。息が止まり、動悸が激しくなる。指先が冷たくなって震え出す。
光!あの日のフラッシュバック。甦る光景に目を閉じても、脳裏に浮かぶ。遠くで、春香の声が聞こえた。
「柊晴くん! 」
俺の横で屈む春香にようやく気づいた。
「あ……悪い」
「真っ青だよ」
気持ちの悪い汗が首筋を伝う。
「今日は、帰ろ? 私が考えておくから。大丈夫だから、柊晴くん。大丈夫だから、ね? 」
大きな音。それから、赤と白が駄目になった。ドラマなんかのシーンも。そんな事、言ってられない。頭から無理に追い出した。考えないように、思い出さないように。
光は、元気にやっている。だから、大丈夫だ。
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