36.出会い

4/10
前へ
/440ページ
次へ
『悪い、少し遅れる』  光と再会する日、春香にそうメッセージを送った。頭の中のシミュレーション。自己紹介の言葉。少し前までは何度も会って、密に過ごしたその相手に対して、緊張で震えた。しくじったら、二度とチャンスはないかもしれない。それより、喜びの極地。光の目にまたうつることが出来るのだ。  すうっと吸った息を長く吐いた。ガラス張りのカフェの中、春香の後ろ姿と光の姿が見えた。  俺を見つけると 「あ! 仲村さん! 」  そう言って春香が俺に手をあげた。自分の耳に届く程の鼓動。光の目が俺に向けられ、直ぐに伏せられた。もう一度、俺を捉える。 「あ、えっと、こちら仲村柊晴(しゅうせい)さん。仕事でお世話になってるの。で、こっちが私の幼なじみで……」 「ああ、話は聞いてます。初めまして」  春香が言い終わらないうちから話し出してしまう。ヤバい、被った。 「ちょっと、仲村さん! 私、まだ紹介してませんけど? 」  春香の“しっかりしろ”という視線に耐えられず 「ごめん、何か上手く出来なくて」  と、言ってしまった。 「あはは! もう、いらないですね、私。後は二人で」  吹き出す春香を気づかれない程度に睨む。春香が光の耳元で何か言って、光が少し頬を染めた。俺には、上手くやれと言わんばかりの笑顔を向けてその場を後にした。春香がいなくなると、光は所在なさげにする。  何しろ……“初対面の男”と二人なわけだから。
/440ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2187人が本棚に入れています
本棚に追加