36.出会い

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「じゃあ、行こうか、(あきら)」  しまった。光が好印象を持ってくれただろうと油断した。“軽い男”に見られがちな風貌。今日は絶対にそうなってはいけない。驚く光に慌てて付け加えた。 「あ、すみません。馴れ馴れしかったですね。初対面で」  少し視線を外してそう言った。 「いいですね、それ」  ……光が俺に笑顔を向ける。 「……じゃあ……俺の事も」 「はい、柊晴」  今まで通りにそう呼んでくれた。スタートラインに立てた気がした。  歩道の内側を歩かせる。少し距離を取って光に添えたくなる手を止める。  家まで送った。当たり前のように居場所のあったこの部屋に、また俺を入れてくれる日が来るまでは、ドアの前まで。 「今週末にまた会って頂けますか? 」 「はい、あの……楽しみにしています」 「ありがとう」  ちょっと、日にち詰めすぎたか。焦ったな。  上手く……やったと思う。本当の初対面の時よりずっと。軽いとも、馬鹿だとも思われなかったはずだ。ボロが出るのが怖くてあまり話せなかったけど。  落ち着いた男が、光は好きなんだろうな。好意的に向けられた光の目を思い出してそう思った。
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