36.出会い

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「次の休み、どこか行こうか」  そう提案した。こうして時間が出来たら二人で出かけるのが楽しみだった。だけど、あれ以来、白い雪が苦手でそんな場所は避けた。  ……いつか、約束した沖縄も、なぜか提案出来ずにいた。 「そうね、どこにしようかしら。もう結構行ってるものね。まだ行っていないところ……」 「行った所でもいいよ。良かったら、何度行ったっていい」 「それもそうね」  それから、二人でどこが良かったか、言い合った。 「ここも、良かったって光言ってたね」  そう聞いたのは、海鮮を食べに行ったあの宿。伊勢神宮へ参拝したあの場所だった。口から出した後で気づいたが、否定するのもおかしい。 「そうだった? 色々行きすぎて、覚えてないかも」 「うーん……覚えてないということは、イマイチだったのかな」  掘り下げずに流した。 「あ、ここは? 」 「ああ、いいな。そうしようか。予約とれなかったら、こっちでも」  覚えてないか。聞かなければ良かったな。 『覚えていない』  分かっていることに、自分でも驚くほどにがっかりした。旅行はたくさん行った。だけど『覚えていない』ほどは行っていない。  分かってる。それなのに……虚しさが胸を掠めた。“覚えていて欲しかった”そう思った。
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