36.出会い

10/10
前へ
/440ページ
次へ
「ねぇ、私の何が良かったの? 」  ある日、光はそう聞いてきた。ここまで随分と性急に事を進めた。そんな疑問も出てくるかもしれない。 『何が? 』その質問に……言葉を選ぶ話し方も、仕草も、瞬き一つも俺の返事を待つ……その表情も。  思い出す、出会った時の光を。光は忘れた、その過去も『全部』それしか答えはなかった。光の横に腰かける。 「一緒にいると、落ち着くんだ」  そう言った。 「……逆に、一緒に居ないと……不安になるのかもね」  光が隣にいる。見つめると、まっすぐに見つめ返してくれる。抱き締めると暖かい。柔らかい唇。 「結婚するなら、一緒にいて落ち着く人がいい」  俺達は、結婚を決めた。以前決めたのと同じ、その日に。横にいないと不安だった。ずっと一緒にいたかった。  光が、全てを思い出した瞬間に、変わらずに隣にいたかった。  ──  その日は、まだ来なかった。
/440ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2187人が本棚に入れています
本棚に追加