37.結婚生活

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「ここ、凄い素敵! 」  予約していた式場で光はそう言った。 「光は、そう言うと思ったよ」  全てが順調だった。   ────俺達はそこで、挙式した。    皆に祝福されて。空にも、海にも、植物にも、南から吹いた……優しい風にも。  夢の様に綺麗だった。俺の隣で微笑む光は……本当に綺麗だった。  光の目に溜まる涙をそっと拭いた。この日を迎える為に、今日までやって来たのだから。どうしても、ここに立つ光を見たかった。  幸せで幸せで……  なのに、涙は出なかった。喜びと安堵。あの日の光の願いを叶えてやれた。その事に。ただ、その為に……今日までやって来たのだろうか。  幸せに心から喜べなくなった。失う恐ろしさを知ったあの日から。未だにこれで良かったのかと思う。  あの日の光は……どこへ。  義務感なのか、俺の希望なのか。どこかでいつも、そんな想いが付きまとった。いつしか……分からなくなった。“自分”が。
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