37.結婚生活

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 外で食事をしよう。その日はそう言っていた。俺の会社の近くの、光のお気に入りの店。俺が仕事を終えるまで、そこで待っているはずのカフェに光の姿は無かった。俺は必ず、店内で待つように言った。  外では絶対に待つなといつも言っていた。スマホを確認すると、メッセージ通知のポップアップ。 『体調が悪いから帰るね』  そのメッセージを読むと心臓がバクバクと酷く脈打った。心配で心配で走って帰った。少しでも早く顔が見たかった。  シャワーを浴びたのか、メイクの落ちた顔。 「食欲は? 熱は? ……頭は痛くない? 」  そっと触れる。いつもの笑顔はない。熱はないみたいで……頭も痛くないと言う。何か思い出した訳でもなさそうだ。 「うつるといけないから」  熱も、咳もないのに光はそう言った。  その日を境に、光は笑わなくなった。
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