38.土曜日の約束

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 背中に気配を感じて振り向くと、光が帰って来た。久しぶりに見たワンピースも、変えた髪型も俺の為だとしたら…… 「悪い、光が帰って来た、また後で」  春香にそう言って、電話を切った。 「帰って来たら、いけなかった? 」 「……光」  無表情に固い声、そこに笑顔を張り付けて光は言った。 「私、愛してないわよ。あなたのこと。少なくとも、今は」  俺を愛していない……と。少なくとも、愛してくれていると……思っていた。  光の言葉は俺を動けなくした。心も身体も鉛のように重くなった。帰ったばかりの目の前の光が背を向ける。  心が無ければ、こんな思いも……あの事故さえ無ければ……。  バタンと強く閉まる玄関のドアに我に返った。全身から血の気が引く。 「光! 」  出て行った光を追いかけた。
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