38.土曜日の約束

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 夜遅くになって京也から連絡が入った。 『まぁ、何とか。さっき、帰ったから』  上手くいったのか……。それから直ぐに春香からも連絡があった。 『ごめん、柊晴くん。光に送るって言ったんだけど断られて、でも家に向かったから』  家まではそう遠くはない。  だけど、疑われない程度に喫茶店までの道を辿り、光の姿を探した。何度も何度も辿ったのに、光は居なかった。  ついには、京也の所へ行っても……居なかった。これ以上この二人に迷惑を掛けるわけも行かず、近辺を探した。夜が明けるまで。光に何かあったら……その事ばかりを考えた。一度マンションへ戻ると玄関に光の靴があった。 「今まで……どこに……いや、どこへ行くつもりなんだ? 」  光は荷物をまとめていた。その場にしゃがみこんだ。寝ていないせいではない。無事に安堵したから。ほっとし過ぎて出そうになる涙を堪えた。 「4年前」 「そこに、俺は居るのか? 」 「居ないわね」  俺が居ない4年前に何があるというのか。 「居ないから、行くの」  出会わなければと思う程に、俺の事が嫌なのか。 「光! 何で……」 「私じゃない。あなたが見ているのは」 「……光」 「私じゃない。……あなたが、好きなのも」 「他に誰が居るって言うんだよ」  光の目に涙が溜まり、それは途絶えることなく筋を作った。 「俺が愛しているのは、光だけだ」  こうなって気づいた。4年前からずっと、俺は光だけだ。過去の光も、目の前の光も、同じ光で。一人の光で。  俺は全部愛している。今の光の中に過去の光を見ていた。同じ光なのに。
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