39.夫婦

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 車の中ではあの頃よく聞いた曲をかけた。少しでも……なんて、そう思って。 「懐かしいわね」  光がそう言った。 「そうだな、ドライブなんて」  あの頃のドライブは覚えているのだろうか。少し込み合って来た高速の入り口をバイクがすり抜けて行った。顔をしかめた俺に 「あれ? 運転すると、人格変わる人だった? 」 「いや、だって……危ないだろ? あー……穏やかな人が好きなんだっけ? 」 「そうだね。落ち着いた人がいいかなぁ」 「気をつけます」 「穏やかだよ、柊晴は」  ならば、好きになってくれるのだろうか。 「光もね」 「私もハンドル持つと変わるかもよ」 「……次のSAで代わってみる? 」  軽く言った事を後悔した。ど下手に拍車がかかっていた。次のSAで早急に、また運転を代わった。短くため息をつくと……ハンドルに頭を預けた。 「ふっ、あ、はは! ははははは! 」  酷い運転だ。前の車も、後続車も避けてた。 「し、仕方ないじゃない。久しぶりだったし、久しぶりなのに高速なんて……」 「いや、出てた。めちゃめちゃ。スピード。左走ってて、あれはないわ」 「ハンドル握ると変わるのかしら」 「死ぬかと思った」  そう言って、大きく息を吐いた。  右手はハンドルに預けたまま。左手を光の頭に回し、引き寄せた。それを確かめるように唇を重ねた。 「生きてて、良かった」  生きていて良かった。それ以上何を……何を望むのだろう、俺は。馬鹿だなぁ。
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