39.夫婦

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 最初はその時の気持ちだけでも思い出せばいいと始めただけだった。タンスの引き出しから出したアリュールを控えめにつけた。  春香が若く見えるように、顔には何か色々施してくれ、髪は短く見えるようにサイドを固めた。こちら側は演技であるはずなのに、そこで光を見ると、気持ちがあの時に……4年前に戻った。  あの頃と同じように胸が高鳴り、何も考えられなくなる。カウンターでトレーを返す光がスローモーションのように見える。 「じゃ、また」  そう言うと、京也に一礼する光を……気づけばあの頃と同じように止めていた。  何度出会ってもこうなる俺に、京也が入ってくれた。 「少し話したい」そう言って、さっきまで光が座っていた席に二人で行った。京也が心配そうな視線をよこし、それに気づいた光が微笑む。  これは……紛れもなく4年前に見た光景だった。お互い31歳で、4年前に戻った。 「ねぇ、この髪型……」  自然に俺に手を伸ばす光に気持ちも……戻ったのか、幸せで、苦しいくらいの感情が繰り返しやって来て、目の奥が熱くなった。光のその手に自分の手を重ねる。それに、体を強ばらせることもない光に 「ねぇ、また会いたい」  そう言った。 「来週、また……同じ時間に会える? 来てくれるまで、ずっと待ってる」 「ねぇ、いつもそうやって……」  意図せずあの頃と同じ会話になった。
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