39.夫婦

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 土曜日でも水曜日でもない出張帰り、ニアミスで過ごすリビング。光は俺の存在に顔をひきつらせ、身構える。何も変わらない日常に苦く笑う。 「好きな人でも出来た? 」  ここ最近の光は、綺麗で少し……いつもと違う。それが例え……あの喫茶店での俺のせいでも、嬉しいと僅かに期待してしまう。 ──  脈絡もなく 「ねぇ、春香と会ってる? 」  そう聞いてきた光に、何か気づいたのかと答えにも慎重になった。 「ああ、そうだったな。最近はあまり……」 「そう」 「風呂、先にいいか? 」  ボロが出ないようにと、会話を遮った。 「伸びたね、髪」  俺の髪に手を伸ばして触れようとした光の手を止めた。 「悪い」  ……しまった。今の行動は不自然だった。髪をただ上げただけのアレンジで若く見せていた。実際の4年前と同じ様に。  今はまだ気づかれたくはなかった。部屋に入ると、止めていた息を吐いた。  何でもないそんな日に、俺に触れようと自然に手を伸ばす。こんな些細な変化が……水曜日によって作られているのなら、もう少しもう少しだけ、水曜日を過ごしたかった。
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