39.夫婦

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「光、『柊晴くんの気持ちがない』って言ってた」  京也の喫茶店、コーヒーの香りが流れ出した空間で、光から話を聞いた春香がそう言った。 「『それは、ないと思う』って言っておいたけどね」 「“水曜”の、事は? 何か言ってたか? 」 「何も。流石にタイムスリップなんて非現実な事は言えないのかもね。京也くんは? 」 「“4年前に思う事がある”らしい。失った記憶以外で」 「光の4年前なら1年引かなきゃならないから、5年前? ああ、もう訳分からない! 」 「俺の事、好きだと思うんだけどなぁ。今の俺じゃないかもしれないけど。例えここで会うだけの4年前の俺でも俺である限り、何とかならないか」 「『もう、気持ちの問題でもないから出ていこうかな』って言ってたよ。柊晴くん、何がどうなって、どうするのよーー! 」 「落ち着けよ、春香」  京也がトーンを下げて言った。 「柊晴が、久しぶりにポジティブだ。“水曜”があるからだろう? だけど、長く居るもんじゃないぞ、過去には。どこかで終わらせろ」 「分かってる、ごめん。あと少し。あと少しだけ……付き合ってくれ」  二人にそう頼んだ。不毛過ぎて笑える、そんな“水曜日”に。 ──── ── 「……別れて下さい」  土曜日、光は俺にそう言った。これが今の現実だ。 「早いよ、まだ土曜日も2回目だよ」  そう言って笑って笑ってはぐらかした。“俺の気持ちがない”から別れたいのだとしたら……光の気持ちはどうなんだ。
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