39.夫婦

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 水曜日は、ただ待つだけの日だ。  京也はこの関係にいい顔はしなくなったけれど、光は必ず来てくれた。  ドアベルが鳴ると、我慢出来ずに駆け寄った。俺の顔を見るなり微笑む光に、ここでは常に夢見心地だった。必要とされていることに。 「こっち向くなよ」  カウンターに目を向けてそう言うと、京也が吹き出す。光も顔を赤く染め、恥ずかしそうに俯く。もう一度、京也をチラリと見ると。それに気付いた京也が苦笑いし、店内を見回して行った。 「10分だけ、だからな。変な事はするなよ! 」  そう言って、奥へと入って行った。  10分。  光の前の席から移動し隣に座った。俺が触れても嫌がらない。  いや、むしろ……触れて欲しいと言わんばかりの、光の熱っぽい瞳に、艶やかな唇。  我慢など出来なかった。我慢など必要なかった。触れる手が震える。 目を閉じたのは同時だった。溢れる気持ちをそのまま光に、光からも俺に。時が戻ったかのようにお互いの唇を求めあった。  気づけば10分が過ぎ、向かいの席に戻る。言葉なんて、会話なんて交わせる時間がなかった。  止めなければ……。後ろめたい気持ちも、騙す罪悪感も……頭では理解していた。なのに、日を重ねる毎に止められなくなっていった。この向き合ってくれる甘さに。この時間だけは、本当に4年前に戻っていたのではと思うほどの特別な時間だった。
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