39.夫婦

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 次の土曜 「私ね、柊晴。好きな人が出来たの」  光はそう言った。 「どんな男が好きなんだ? 今のみたいな(やつ)? 」  確信の為に、聞いた。この日の映画は、光が見たいと言った。 「そうね、少し年下で……真っ直ぐで……可愛いの」  映画もそんなにストーリーだった。光の言葉に“4年前の俺”の事だと確信した。 「女性は、落ち着いた男が好きなんじゃないのか? 」 「何も考えずに、あんなに真っ直ぐ好きでいてくれたら……心が動くでしょうね。それに……」 「それに……? 」 「別れて、くれる? 」 「そいつの、ところへ? 」 「いいえ」 「じゃあ……」  光が“4年前の俺”を好きでも、どうしようもない事は光も分かっているだろう。だから、“今の俺”を愛そうと、自ら手を伸ばし、俺のキスに応えたのだろうか。  それならば時期を見て……本当の事を話すべきなのか。 「なぜ、私に嘘を付くの? 」  その目は笑ってはいなかった。 「嘘が、つけないくせに」  光は気づいたのだろうか。何かを思い出したのか。ついた“嘘”は多過ぎて、俺にはどのことか分からなかった。
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