40.光の幸せ

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 何時ものように、時間を潰して家へと向かった。  マンションの部屋の前、人影が見えた。光……と……伊東?  光は自ら、伊東へと体を寄せた。伊東が何か言って、光が慌てて伊東から離れた。 「ほ、本当だ! やだ! ごめん酔ってるのかな」 「はは! ほら、声も、デケェ」 「……本当だ」  ……これ以上は見てられなかった。 「中に、入ればいいだろう? 」  光と伊東の間を通り、玄関の鍵を開ける。むせかえるほどの、伊東の香水の匂い。 「鍵を忘れちゃって……その、彼が付き合ってくれて」  たどたどしく、光が言い訳をする。 「入りますか? 」  俺が伊東にそう聞くと 「いえ、また……今度。……仲村さんと二人の時にでも」  そう言って、俺の目を数秒見た後、ふっと笑って光へ視線を移すと、 「じゃ、また明日」  そう言って、背を向けた。  “仲村さん”  わざとらしく、俺とも光とも取れる呼び方をした。確かに俺ともよく二人で会っていた。だけど、光ともよくそうであると匂わせるような、言い方、表情……心が黒く沸き立つ。  玄関のドアが閉まり、そこに置きっぱなしだった鍵を光が手に取った。鍵を忘れたというのは……嘘ではないのか。 「言えば、届けたのに」  連絡をくれれば。光も、そして伊東も、俺の連絡先は知っているというのに。 「どこにいるのか、分からなかったし」  伊東の匂いが、伊東からではなく、光からするということに、玄関のドアが閉まって気づいた。バスルームへ一直線で行った。 「臭い。先に風呂、行けよ」  強い口調でそう言った。……我慢出来なかった。  “他の男と寝てもいい”なんて。俺の口調に、光がその場から動かない。目には涙。 「ごめん」  頬を伝って落ちる涙は……何を思ってなのか。ここまでになってしまった夫婦とは一体何の意味があるのだろうか。
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