40.光の幸せ

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 違和感は続いた。  就業時間終わりに、光が俺の忘れ物を届けに会社へと来てくれた。前はよくどちらかの会社から食事に行ったりした。結婚してからも恋人のように。  受付から連絡を受けてビルの下へ下りると、光の姿を見つけた。俺に気付いて微笑む。だけど直ぐに居心地の悪そうな表情に変わった。  ああ、もう勘弁してくれ。受付の佐田が随分と不躾な視線を投げつけてくる。受付が見えない位置まで促す。 「ごめんなさい、外で待つべきだったわね」  光がそう謝罪してくる。 「いや、あれは失礼だよな。受付にあるまじき……」  まさか、あの女から気を持たれてるんだとも言えず濁した。 「あなたと、釣り合わないって思われてるんでしょ。もう、来ないから大丈夫よ」  笑ってそう言った。 「……光、そんなこと……」  光の言葉に眉を寄せる。釣り合わないだなんて、もう来ないだなんて。 「行って、出張でしょ? 」  そう言って俺の背中を軽く押す。俺はこのまま出張で光は明日、春香と三重へ行く。 「ああ、気をつけて、帰って来いよ」 『帰って来いよ』敢えてそう言った。まるで帰って来ないように感じて……。 「柊晴も、気をつけてね」  こんなやり取りさえ、少し前は無かった。それに、光の笑顔に寂しさが残る。  帰ってこないなんて……大丈夫だ。俺が迎えに行くのだから。
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