40.光の幸せ

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 帰りの新幹線の中、大して見えもしない日暮れの景色に乗り出す賑やかな俺に 「もう、ちょっと落ち着いて」  光がそう言った。過去に戻ったみたいなセリフに胸が苦しい。息だって上手く出来ない。 「……ごめん」  座席に背をつけて座り直すと 「……戻りたい」  愛し愛された、あの頃に。何だって出来る、そんな気がしてしたあの頃に。  光がいれば……それで良かった。  光はもう……俺の横にいることを望まない。 「柊晴、私ね、幸せだった」  嘘のように静かな時間だった。 「柊晴と、夫婦になれて、良かった」  そう言って俺の肩に頭を預けた。俺も光に頭を預けた。2年間は夫婦でいられた。その思い出と情がそうさせたのか。 「ああ、俺も。……幸せだった」  嘘みたいに静かで幸せな時間だった。光が生きていてくれて良かった。出会えて幸せだった。短い間でも愛されて幸せだった。こんなに愛せて幸せだった。  外の景色はいつの間にかもう何も見えなくなっていた。俺達は目的の駅に到着するまでどちらも話す事も、離れる事もなかった。  楽しかった思い出が甦る。それは、4年前の思い出だけじゃない。二度目の出会いも、交際も、夫婦生活も……最近の思い出も。  全て、夢みたいに幸せだった。光が隣にいたから。だから、幸せだった。望むのは、光の幸せだけだ。例え、横にいるのが俺じゃなくても。  幸せにしてやれなかった。ごめん、光。  後悔だけが残った。
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