41.水曜日の約束

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「知るか。そんなもん」  狭くなった喉からは震えたような声しか出なかった。 「今の気持ちはどうなるんだよ、光が決めるなよ、俺の気持ちを! 好きだ、好きなんだよ。この気持ちを無かった事に……するなよ」 「……柊晴……」  俺から離れようとする光を力で止めた。 「光が、心変わりしたんだろ? それとも、最初から勘違いだったのかよ! 」 「そうかも……しれないわね。ねぇ、柊晴、人の気持ちは変わるものだわ」 「それ、本当だろうな」 「ええ、本当よ」 「じゃあ! 光の気持ちだって変わるはずだ。これから未来(さき)で俺を好きに……なればいい! 」 「……それは……」 「人の気持ちは変わるって言った! 俺の気持ちが変わるのか、光の気持ちが変わるのか、未来に希望があるのに、俺は……俺は諦めない! 」  力いっぱい光を引き留めた。 「1年後の、今日、ここでもう一度……会ってくれないか」  腕を緩めるとそう言った。 「やっぱ、半年後」  光の返事を待たずに、またそう言った。 「ああ! 無理だ。無理無理。やっぱ、3ヶ月後!! 」  腕に再び力をこめる。 「1秒だって、離れたくないんだ。今までの一週間、どれだけ我慢したと思ってんだよ。無理。限界。お願いします。3ヶ月後。ここで」 「柊晴、それ、意味ある? 」  光は笑ったけれど 「“うん”って言ってくれるまで、離さない」 「分かった」  諦めるように光はそう言った。腕を離して、小指を出した。 「約束、だからな」 「うん」  そう言って、光が俺の差し出した小指に自分の小指を絡めた。 「子供みたいだな」  そう言って笑いあった。その日、初めての笑顔だった。 「確かめたい。変わらない事を」  “これでいいんだ”  なんて、光を前にしたら全く思えなくなった。最後の希望だった、過去(こっち)の俺なら会ってくれるかもしれない。  そう思った。人の気持ちは変わる。過去の光は俺を愛してくれていた。今は誰を?未来の光は俺を愛してくれたなら。  “人の気持ちは変わる”それでこんなにも辛い想いをしたけれど、それが今は唯一の希望でもあった。
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