42.永遠の誓い

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 待ち合わせの時間を間違えたかのように早く着く。というか、早く向かった。待ち合わせはマンションの前なのだから時間ちょうどに家を出たところで遅刻にはならないくらいだ。ベランダから光を見つけてから出たって間に合う。  なのに、警備員かというくらいここにずっといる。緊張しての挙動不審な男。息を吐いて髪をかきあげる。乱した髪をもう一度整える。そんな意味のない行動を繰り返しては胸の鼓動を落ち着かせようと試みた。  目の前にいつかと同じワンピースを着た光の姿。うっすらと笑みを浮かべ近づいてくる。スローモーションのように……ゆっくりと。  何度でも、何度だって、俺は光に一目惚れをする。 「信じてた」  光が目の前に立つと、そう言った。今の俺の方に来てくれると、信じてた。 「私は……信じられてなかった」  光はそう言った。 「俺の……せいだな」 「私の……せいでしょ」  お互いそう言って笑った。 「あ、7時の待ち合わせ、間に合う」 「え? もう……」  会えたのに? 「行きたい所があるの、来て」 …………光が向かったのは、あの喫茶店。  光が重量感のある、木のドアをそっと開けた。一歩踏み入れる光に続いた。二人一緒にここへ来るのは……。“久しぶり”だ。  カラン  俺達が全店内に入るとドアは静かに閉まり、ドアベルだけがもう一度、響いた。  光が誰かを探すように静かに店内を見回した。光と俺を見ると、春香は俯き その場にしゃがんで、泣き出した。そんな春香に京也が寄り添う。俺達が二人でここへ来る。それが全てを物語っていた。京也は俺の顔だけで、ふっと笑った。光は泣きじゃくっている春香の前に同じ様にしゃがんで、春香の肩を抱いた。 ── 「ありがとう、“京也くん”」  光が、そう言った。  先にドアへと進む光の腕を掴む腕に強い力がこもる。目が合って……数秒。 初めて会ったあの日も、もう一度会ったあの日も……こうやって、光を止めた。俺の方を見てほしくて。 「ふっ、後は二人でやれ」  京也の言葉に4人で笑った。  光はもう……全てを知っていた。  重量感のある木のドアを開ける。重たそうにする光に後ろから、力を添える。勢いづいて開いたドアに二人で外へ出た。……二人で。  ……カラン……  ドアベルがドアを隔てて小さく響く。随分と優しい音を奏でて。
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