42.永遠の誓い

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「ちょっと、若いイケメンと奥さんがデートだからって目の前の私を(ないがし)ろに、ソワソワするの止めて頂けません? 」 「……デートじゃない」  目をつり上げた佐田にそう言った。 「私達のこれは、デートですからね! 」 「……これもデートじゃない。謝礼だ」  俺の言葉に佐田がふんっと鼻を鳴らした。 『素直、なんです。自分に。大人は欲しがったら駄目ですか? 欲しがらないと手に入らないでしょ? 子供のように、欲しがらないと』 『人の気持ちは変わるものです。生身の人間である限り、可能性はあると思ってます。私は諦めませんよ』 『格好つけて、綺麗な思い出が欲しいの? それとも、醜態さらして望む未来が欲しいの?』  いけすかない女の佐田からも、学ぶ事は多かった。助けられた。 「ありがとう、感謝している」  俺がそう言うと 「ふんっ、もう、さっさと行ったらどうです? 奥さんの所へ! 」 「本当だな、『人の気持ちは変わるもんだ』って」 「ええ、変わらないんでしょ、仲村部長は」 「いや、“いけすかない女”を“いい女”だと思うくらいには変わったさ」 「今更気づいても遅いんですからねっ! 私も変わりましたよ“格好いい部長”は“案外情けない部長”に。……お陰で長い長い片思いに……やっと終止符が打てます」  佐田はこっちを睨むように見上げると 「……名前、呼んで貰えません? 私の」 「……美奈子」 「ありがとうございます。さよなら、柊晴さん」  そう言って俺に背中を向けた。 ──── ── それからしばらくして佐田を受付で見ることもなくなった。 どこかでネイリストとして働いてると人伝に聞いた。ゴテゴテした長い爪は、彼女に妙に似あう。 ──── そのまま伊東といる光を迎えに行った。伊東は、遠くで目が合うとニッと笑い光を引き寄せ頬に口づける。俺を見ると、もう一度ニッと笑った。  ………あの男!  光が、俺の元へ駆け寄る。 「……まぁ、あれくらい……」  小さくそう言って 「ああ、やっぱ、ムカつく! 」  直ぐに覆して、光の頬に口づけた。 「あ、伊東くんと間接キスだね」  そう言われて、慌てて手の甲で唇を拭った 『俺は、今……彼女の愛がどこにあるか知ってる。その上で……光さんを愛してる。……それすら、見えなくなってるあなたは……』 『どうかしてる』  伊東は俺にそう言った。  彼のお陰で光は……仕事を続けられた。彼のお陰で俺は……気づくことが出来た。  あの頃の伊東と同じくらいの年だった俺に、彼みたいな愛し方が出来ただろうか。光の幸せをただ願う、そんなひたむきな愛し方が。  もう、俺と彼が会う事もないだろう。彼に敬意を込めて一礼した。
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