うたた寝で見る夢は

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二人が帰った後…… 「言ってくれたら良かったのに」 そう言った。 「あの二人が、どんな状況か分かってて下らない嫉妬心で止めさせたくはなかった」 ……確かに柊晴くんのあの姿は、見てて痛々しかったもんな。 「久しぶりに笑ってたね」 「ああ、春香も」 そう言われて気づいた。そうだったかな。 「香水の話覚えてて欲しかったな」 「何を話していいか……動揺してたからな」 ……そんな風には見えなかったけれど 私も相当動揺していたので…… 「何もかもスッキリ」 そう言った私の前にカップが置かれた。 「……あ、ねぇ京也くん暫くコーヒーは……」 「デカフェ。紅茶のもある」 「……もしかして……この前の?」 「事前準備が必要だろ?」 ……妊娠する前から考えてくれてたのか。 「タイミング、バッチリだっただろ?」 「え、そうだね。妊娠したタイミングで豆届いたの?」 「……春香の排卵」 そう言って少し……赤く…… 「ええぇ!? そんなの分かってて……」 「うるさい、お前」 京也くんが店内を見回して一礼した。 “先に寝てて”って言った日は…… “そうじゃない日”って分かってて…… いや、もちろんそれに合わせてだけしか、しなかった訳じゃない……けど…… 「これ」 渡されたのは宅配スーパーのチラシ数店舗 「俺、買い物付き合えないから、体調悪い時と、お腹が大きくなったら……」 もう、色々お手上げでカウンターに突っ伏す。 「そこ、ソファベッド置いたから」 京也くんが奥の部屋を指差した。 奥には事務作業をする4畳ほどのスペースがある。 「心配だから、そこで寝てて」 京也くんが、そこを指差した。 ──妊娠を機に、私は退社して、京也くんの店を手伝うという名目で毎日うたた寝をしている。 妊娠初期は眠い。 だけど……私より京也くんが、嬉しそうに微笑んだ。 落ち着いた男は、最高だ。 幸せなまどろみの中で、そう思った。
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